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大阪高等裁判所 昭和55年(う)651号 判決 1980年8月14日

主文

原判決を破棄する。

本件を園部簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、園部区検察庁検察官事務取扱検事小林照佳作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一について

控訴趣意第一の一の論旨は、要するに、原審第一〇回公判期日に被告人が出頭しなかったのに、原裁判所が、刑事訴訟法二八五条二項により被告人の不出頭を許可し被告人不出頭のまま裁判官交替による公判手続の更新をしたのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反である、というのであり、控訴趣意第一の二の論旨は、要するに、原裁判所は、次の第一一回公判期日にも被告人が出頭しなかったため、前同様、その不出頭を許可したうえ審理し、結審して、即日有罪判決を言渡したのであるが、刑事訴訟法二八六条二項は、本件森林法違反被告事件のように長期三年以下の懲役若しくは禁錮又は五、〇〇〇円を超える罰金にあたる事件についても判決を宣告する場合には、被告人は公判期日に出頭しなければならないと規定し、同法二八六条は、右の場合被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができないと規定しているのであるから、前記のように被告人不出頭のまま判決を言渡したのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反である、というのである。

よって、まず第一の二の論旨について検討してみるに、原審記録によれば、原審第一一回公判期日(昭和五五年二月二九日)に被告人が出頭しなかったので、原裁判所は、前回の第一〇回公判期日と同様、刑事訴訟法二八五条二項によって被告人の不出頭を許可し、弁護人申請の情状証人三名を取調べて証拠調を終了し、検察官の論告・求刑、弁護人の弁論を経て、即日判決の宣告をしたことが認められる。ところで、刑事訴訟法二八五条二項は「長期三年以下の懲役若しくは禁錮又は五千円を超える罰金にあたる事件の被告人は、第二九一条の手続をする場合及び判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、前条後段の例による」(なお、右の罰金額は、昭和四七年法律六一号による改正後の罰金等臨時措置法により、同法三条一項各号の罪については二〇万円を超える罰金、その他の罪については二万円を超える罰金と変更されている)と、同法二八六条は、「前三条に規定する場合の外、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。」と規定しているところ、本件公訴にかかる森林窃盗罪の法定刑は、昭和四九年法律三九号附則九条により、同法による改正前の森林法一九七条が適用され、三年以下の懲役又は三万円以下の罰金であるから、原審第一一回公判期日においてなし得る手続は、検察官の論告・求刑、弁護人の弁論までであって、判決の宣告はこれをなし得なかったことが明らかである。それにもかかわらず、判決の宣告をなした原審の訴訟手続には、重要な手続規定に違反した法令の違反があるといわざるを得ずその違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかであると考える。論旨は理由がある。

よって、原判決の破棄、事件の原裁判所への差戻しは免れ難いところ、差戻しを受けた原裁判所は、差戻し前の裁判所と別個の裁判所を構成して新たな立場で原判決と別個の判決をすることとなるべく、判決前の手続については、差戻し前の原審手続を全部やり直す必要はなく、公判手続の更新に関する規定に準じてこれを行えば足りるけれども、差戻し後のこの手続、とくに刑事訴訟規則二一三条の二第一、二号に準ずる手続は、被告人の出頭した公判期日においてこれを行う必要があるものと解されるので、被告人不出頭のまま行った原審公判手続の更新についての法令違反及び原判決の量刑不当を主張するその余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条本文により事件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石松竹雄 裁判官 岡次郎 高橋金次郎)

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